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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1287号 判決

被告人

川島三郞

主文

原判決中被告人川島三郞に関する部分を破棄する。

被告人川島三郞に対する本件を津地方裁判所宇治山田支部に差し戻す。

理由

從つて該事実に徴すれば、右訴因の追加請求書記載の第三追加訴因中小麦五俵分に関する部分が起訴状記載の公訴事実に関する訴因を追加したものであることは之を認め得るけれども、其の餘の右訴因の追加請求書記載の各追加訴因は、孰れも之を起訴状記載の公訴事実に関する訴因を追加したものと認め得ない。何となれば、刑事訴訟法第三百十二條第一項の規定に依り明らかなように、訴因の追加とは、起訴状記載の公訴事実に関する訴因と予備的若くは択一的関係又は牽連関係に在る新らたな訴因を加えることを指称し、然かも其の追加は公訴事実の同一性を害しない限度に限り許されるものであるところ、右訴因の追加請求書記載の第三追加訴因中小麦五俵分に関する部分は起訴状起載の公訴事実に関する訴因と牽連関係があり、然かも其の間公訴事実の同一性を毫も害しないのであるが、其の余の右訴因の追加請求書記載の各追加訴因は、孰れも起訴状記載の公訴事実に関する訴因と予備的若くは択一的関係又は牽連関係に在る新らたな訴因と認め得られないのみならず、其の間に公訴事実の同一性は全然存しないからである。左れば若し原審檢察官が前記のように訴因の追加と認め得られない部分に関し、原裁判所に之が審判を請求しようとしたのであれば、原審檢察官は須らく夫等を公訴事実として記載した新らたな起訴状を原裁判所に提出しなければならなかつたのであり、又原裁判所としても、原審檢察官から右のような新らたな起訴状が提出されない限り、夫等に付審判を爲し得なかつたのである。然るに原裁判所が夫等に付、原審檢察官から前記のような新らたな起訴状の提出を受けなかつたのに拘らず、夫等をも曩に原審檢察官から提出された起訴状記載の公訴事実及同訴因の追加と認め得られる前説明の訴因とを併せて審理を遂げた上、以上が孰れも有罪であると認定の下に、一個の有罪判決の認定を爲したことは、本件記録に徴し明白であるから、斯の如き原審の訴訟手続には法令の違反があるものと謂うの外なく、然かも其の違反が判決に影響を及ぼすことが明らかなものであることは、更に縷説を要しない。

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